保育のICT化って何ができる?メリット・デメリットや活用事例を解説

保育のICT化は業務負担を軽減し、保育環境を整備することで「保育の質」を向上することが期待されています。

各施設では少しずつICTシステム化が進み、効果を実感している事業者も少なくないでしょう。

さらに、こども家庭庁では、令和7年度中までに保育施設のICT導入率100%を目指すことを示しました。

とはいえ、効果を得られるまでに時間がかかったり、費用負担が大きかったりと、ICT化が進みにくいという実態もあるでしょう。

そこで今回は、保育のICT化って何ができるの?を解説します。

あわせてメリット・デメリットや、各施設の活用事例も紹介しますので、ぜひご参考までにご覧ください。

保育のICT化とは?

保育のICT化とは、保育園や幼稚園などの保育施設においての業務をICT技術で効率化させることです。

ICT化によって、保育者の業務負担を軽減する効果が期待できます。なにより保育者の本来の職務「保育」に注力できるのがポイント。

保育のICT化は、保育の質の確保・向上を目指すために重要な役割を担っています。

とはいえ、保育現場ではICT化がスムーズに進まないという課題もあります。

ここからは、実際の保育のICT化の普及率や現状などをみてみましょう。

保育のICT普及率はどのくらい?

保育現場のICT化普及率は、令和7年3月「保育施設等における全国的な導入状況」から参照できます。

保育ICT補助金対象の4つの機能を比較した、下記の表をご覧ください。

保育ICT補助金対象の4つの機能の普及率

園児の登園及び降園の管理に関する機能71.3
保護者との連絡に関する機能71.5
保育に係る計画・記録に関する機能55.4
キャッシュレス機能15.0

「園児の登園及び降園の管理に関する機能」「保護者との連絡に関する機能」は普及率が高く、ICT化が進んでいる傾向です。

続いて「保育に係る計画・記録に関する機能」は半数を超えていますが、「キャッシュレス機能」はあまり普及していないことがわかります。

また、各施設による4つのICT機能の導入状況は、下記のとおりです。

ICT機能の導入状況

全導入11.7
いずれかのICT導入80.8
4つのICT機能以外を導入84.4

参考元:令和7年3月三菱UFJリサーチ&コンサルティング「保育施設等におけるICT導入状況等に関する調査研究事業報告書

補助金対象の全機能導入している施設は、約1割。反対に4つの機能のいずれかを導入している施設は、8割を超えます。

全体的にはなんらかのICT機能を導入している施設が多いものの、すべての機能を整えている施設の割合は少数派です。

保育のICT化の現状

保育現場ではICT化が進みつつあるけれど、浸透するまでに時間がかかることがわかります。

とはいえ、令和7年3月三井UFJリサーチ&コンサルティング発行「保育施設等におけるICT導入状況等に関する調査研究事業報告書」によると、各施設のネット環境・機器の整備状況は9割を超えるという現状も。

ただし、保育室の機器整備率は低く、パソコンは36.8%、タブレット端末は53.2%。さらには、補助金を活用した施設の割合は約半数でした。

ICT導入に対して保育者のさまざまな意見がありながらも、活用する中で意義や利点について理解が得られたという声もあります。

一方で、劇的に改善されたというよりも、導入だけでは働き改革の促進は難しいのが現状です。職員間において目的の共有から具体的な業務につなげ、さらに使いこなせるかどうかで効果が変わることが明確になりました。

保育ICT化を進める本来の目的

こうした現状を踏まえて、玉川大学の大豆田啓友教授は令和5年3月発行「保育所等におけるはじめてのICT活用ハンドブック※」にて、保育のICT化の役割について言及しています。

ICT化は「保育者をサポートするツール」として活用するのが大切であり、そもそも「ICT化の導入を目的としない」こと。

まずは、保育の「なりたい姿」を明確にして、次いで導入を進めるのが重要と言います。

ICT化は手段に過ぎず「どんな保育を目指したいのか」という未来を見据えながら、保育現場を整えていくという認識が必要なのでしょう。

詳しい内容は「保育所等におけるはじめてのICT活用ハンドブック※」に記載していますので、ぜひ参考までにご覧ください。

厚生労働省「令和4年度  子ども・子育て支援推進調査研究事業(保育分野におけるICTの導入効果及び普及促進方策に関する調査研究)」の一環で作成されたハンドブック

保育ICT化のメリット・デメリット

ここからは、保育ICT化のメリット・デメリットについて詳しく解説します。

理解しておきたい「ICT化のメリット」

基本的にICT化を進めるには、メリットを理解するのが大切です。まずは、下記のメリットをご覧ください。

・働き方改善

・業務フローの見直し

・保育者同士の保育の振り返り時間の確保

・子どもと向き合う時間を増やす

・保護者とのコミュニケーションツール

ICT化を一言で表すと「働き方改革」。

業務のプロセスをわかりやすく示し、スムーズに遂行できるように業務内容・流れを見直すことができます。あわせて保育者間での共有や、連携も取りやすくなるでしょう。

こうした従来の業務時間を大幅に短縮することで、保育の振り返り時間を確保できたり、子どもと向き合う時間を増やしたりすることが可能です。

本来の保育に注力でき、保育の質の向上につながるでしょう。

また、保護者とのコミュニケーションツールとして確実に情報を共有できます。

さらに、余分な時間・費用を削ることで、コスト削減にも効果的です。

慎重になる理由「ICT化のデメリット」

ICT化に慎重になる理由には、デメリットの存在が大きいでしょう。ICT化によるデメリットをご参照ください。

・費用負担が大きい

・効果が出るまで時間・費用を要する

・従来業務から脱却する不安・抵抗感

・ITが苦手な職員の負担感

・ネットワーク環境を整備の必要性

・セキュリティ・プライバシー漏えいリスク

・システム障害の可能性

実際に導入となると、さまざまな面で負担と感じることがわかります。なかでも費用・時間の負担は、即決しにくい要因でしょう。

また、システムを取り扱う職員の不安・抵抗感、漏洩リスクへの懸念などの心理的なハードルもあげられます。

保育ICT化の活用法とは?事例・具体例を紹介

保育のICT化による活用法は、具体的にどのような方法があるのでしょうか。

令和5年3月発行「保育所等におけるはじめてのICT活用ハンドブック※」を参考に、いくつかの事例・具体例をみてみましょう。

事例その1

保護者とのコミュニケーションがスムーズになった

アプリの一斉送信で保護者に連絡できるようになり、「業務負担が減った」という声があります。

紙の配布の手間を削減できたり、送信した文書を既読できる機能が備わっているため、保護者とのコミュニケーションが円滑になるというメリットを実感されているようです。

また、保護者側はいつでも配信をみることができたり、子どもの様子をわかりやすく知ることができたりと、利便性の向上や保育士との会話が深まったという声がみられました。

事例その2

請求関係の事務が簡潔になった

保護者がICカードをかざして登降園できるようになったことで、職員が応答する必要がなくなったことがメリットだとあります。

応答の際の負担が減るのと同時に、正確な登降園管理も可能になったことで確認ミスがなくなったり、請求をスムーズに行えたりという改善状況がみられました。

厚生労働省「令和4年度  子ども・子育て支援推進調査研究事業(保育分野におけるICTの導入効果及び普及促進方策に関する調査研究)」の一環で作成されたハンドブック

保育のICT化が進まない理由

保育のICT化は業務の負担が軽減され、確実な情報共有や円滑なコミュニケーションツールとして重要な役割を果たしています。

とはいえ、保育のICT化が進みにくい現状は否めません。あらためて進みにくい理由をみてみましょう。

令和7年3月三井UFJリサーチ&コンサルティング発行「保育施設等におけるICT導入状況等に関する調査研究事業報告書」では、下記の理由があげられています。

・導入コストやランニングコスト(非導入・導入進んでない施設対象)

・公営では自治体の方針や基盤整備が課題

・私営ではコスト負担が課題

初期費用だけでなく、中・長期的な費用を考えてしまうと、ICT化導入が進みにくいのが現状です。また、公営・私営ごとに課題を抱えていることもわかります。

ICT化を促進するために、費用の負担軽減できる補助金制度があります。それなりの割合を負担してもらえるので、なるべく活用できるといいでしょう。

保育ICT化に関するよくある質問

保育のICT化に関する質問をいくつかまとめました。ご参考までにご覧ください。

補助金はどのくらいもらえるの?

補助金は国や自治体から支援してもらえます。詳しい負担金額について「令和7年度 保育関係予算案の概要」を参考にした表をご覧ください。

補助金の金額&負担割合 ※保育施設の場合

1機能2機能3機能4機能
補助基準額※1施設あたり20万(端末購入等あわせて70万円)40万(端末購入等あわせて90万円)60万(端末購入等あわせ110万円)80万(端末購入等あわせ130万円)
事業者負担割合   4分の1

ICTの数、機器、施設などによって、補助額が異なります。上記の負担額の割合は、国の負担が2分の1、区市町村が4分の1、事業者負担が4分の1という内訳です。

その他の認可外保育施設や、病児保育事業等の業務などにも補助がありますが、各施設によって内容が異なります。

詳しい内容は「令和7年度 保育関係予算案の概要」をチェックしてみてください。

遊びに活用した事例

保育のICT化は事務的な業務だけでなく、遊びにも活用可能です。

文部科学省公式サイト「幼児の遊びや生活を豊かにするICT活用に関する研究」にある各園の取り組みの事例を2つ紹介します。

鳴門教育大学附属幼稚園

4歳児の園児たちの「プールに行きたい」気持ちと「台風」という悪天候を心配するリアルタイムな関心ごとに活用。
結果、ICTから得た情報と生活の知恵から得た情報を結びつけ自ら判断し行動する姿が見れた。

茨城大学教育学部附属幼稚園

北京オリンピックから刺激を受けた5歳児たちの「アイスホッケーをやってみたい」という言葉から始まった「アイスホッケーごっこ」に活用。
結果、保育者の意図を超えた遊びが広がった。リアリティのある雰囲気を体感できた。

ICTを遊び活用する際は、子どもたちの様子や声からつなげている方法がみられます。ただし、保育室でのネット環境や機器が整っていた方がよいでしょう。

また、文部科学省公式サイト「幼児の体験を豊かにするICT実践事例集」にて、保育のICT活用事例が掲載されています。さまざまな方法があるので、ぜひ参考にしてみてください。

保育のICT化は、厚生労働省が主体?こども家庭庁が主体?

結論として、厚生労働省とこども家庭庁の両輪で推進を促しています。ただし、実施主体は区市町村です。(中核市を除く)

ICT化に関する問い合わせは、各区市町村の保育主管部署がよいでしょう。

保育のICT化は、働き方改善のチャンス!長期的な目線で検討を

保育は、人と人とのつながりを感じられる豊かな仕事です。そのため、ICT化を導入したからといって、すべての課題を改善・解決するのは難しいかもしれません。

とはいえ、保育現場の業務過多や人材不足などの課題に対してICT化は重要な役割を担います。

保育環境の改善・負担軽減のためにICT化を進めることで、園の子どもたち、保護者、職員などの関わるすべての方によい循環をもたらす転機になるでしょう。

また、遊びに活用することで、時代に合わせた保育を展開していくことができます。

ただし、やみくもに導入するのではなく、保育本来の目的を明確にすることが大切です。
私たちはどんな保育をしたいのか」と、この機会にじっくり考えてみてはいかがでしょうか。

そして、下準備はしっかり、補助金は最大限の活用がおすすめです。

保育のICT化は、未来を見据えた長期的な目線で検討していきましょう。

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