すぐに実践!インクルーシブ保育の環境構成3つのヒント 〜無理なく始めるスローステップ〜

はじめに「うちの園、クラスでできることは?」インクルーシブ保育の悩み、3つのステップで解決へ

みなさんは『インクルーシブ教育』という言葉、聞いたことありますか?

「聞いたことがあるけど、よくわからない」
「ちょっと取り入れてみたいけど、ハードル高そう…」
「準備や環境整備が大変なんじゃない?」

こうしたお悩みや声、少なくないですよね。

そもそも、インクルーシブ教育とは?

文部科学省資料にある『共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)概要』を参考にまとめてみました。

インクルーシブ教育とは

人間の多様性の尊重障がいをもつ方の能力の最大限の発達を促すことが目的の教育法。

インクルーシブ教育の実現するためには、以下の要素が不可欠とされています。

  1. 分離・排除の禁止: 障がいのある方が排除されず、居住地域で教育機会を得る
  2. 共学の仕組み: 障がいのある方とない方がともに学ぶ仕組みを構築する
  3. 合理的配慮の提供: 個々のニーズに応じた合理的配慮を必ず提供する

障がいのある方が精神的・身体的能力を最大限に伸ばし、自由な社会に効果的に参加することを目指します。

インクルーシブ教育は「多様性」を前提として環境や工夫によってすべての子どもたちの参加を実現しようとする考え方です。

そのため、障がいの有無にかかわらず「不登校」「感覚過敏」などの悩みを抱える子どもたちにも共通して考えることができます。

ここでチェック
インクルーシブ教育は『どんな子どもも取りこぼさず包括する』のが目的

しかし、インクルーシブ教育を取り入れる難しさを感じている園・保育者は少なくありません。

日本では、インクルーシブ教育が広がらないのが課題でもあるんです。

そこで今回は、コストをかけずに「今日からできること」をピックアップし、3つのスローステップ具体的な環境調整のヒントをまとめました。

インクルーシブ教育に興味があるけど、どう取り入れていいかわからない!」そんなお悩みの方は、ぜひご覧いただけたらと思います。

ステップ1:インクルーシブ保育の「考え方」の土台を整理しよう

障がいをもつお子さんが、配慮なく普通学級に在籍する『統合(インテグレーション)』という考え方があります。

現在の公教育では統合の概念が根強く、おおまかに言うと「一斉授業」「集団行動」のような活動が一般的です。

ただ、近年では『個別最適化教育』のように、個々の力をのばそうとする教育ニーズも高く、今後の教育のあり方の見直す声も多くあります。

保育でも「みんなで同じ時間に同じ活動をする」という“統合”の考え方が定着しているように思います。

とはいえ、年々“多様性”を尊重する動きも増えているのではないでしょうか。インクルーシブ保育では、こうした「考え方」が大切な根幹になります。

では、現場にいる私たちはどのように変化していけばいいのか?

インクルーシブ教育の考え方を土台にして、保育のあり方を整理しながら考えてみましょう!

“統合”から“包摂”へ。なぜ今、環境を変える必要があるの?

インクルーシブ教育は『障がいなどのマイノリティ側(少数派)に合わせる』という考え方でなく、環境がバリアを取り除く(インクルージョン)』という視点を重視します。

ここでポイント
子どもが問題じゃない。環境や社会の側に問題があると捉える。

『インテグレーション(統合)』は排除や分離につながりやすいですが、
『インクルージョン(包摂)』では、“みんな多様“という価値観が前提です。

さらに本人の参加の意思があれば、合理的配慮を求められます。

もっと詳しく

合理的配慮』とは、障がいのある方が、障がいのない方と同じように社会のあらゆる活動に参加したり、権利を行使したりできるように個別の状況に応じて必要かつ適切な「工夫や調整」を行うこと。

【参考元】
文部科学省資料3:合理的配慮について
外務省「障害者の権利に関する条約」:第二条定義

インクルーシブ保育が目指す姿!障がいや不登校を経験した子どもの「できる」を一緒に探す

日本では、インクルーシブ教育の設備・制度が整っていない“社会的な障壁”が大きな問題。

障がいによって必要な環境は異なりますが、どのようなお子さんであっても包括できるような環境・体制は必要だと感じます。

そうなると、費用の課題は避けられませんよね…。

ただ、費用の条件がそろうまで待っていると、はじまらないことも!

ここのポイント
インクルーシブ教育は「じゃあ、どうしたらいいのか」「現状のなかで何ができるか」を軸にする

いきなり100点を目指さず、10点、20点、30点…と、ゆるやかな加点方法を取り入れる。
それだけでも大きな一歩になります。

そもそもインクルーシブ教育は、日本であまり進んでいない印象ですが、諸外国では取り入れられている教育法です。

障がいに限らず、不登校などでお悩みのお子さんにとっても必要な考え方と言えそうです。

マイノリティの子どもたちが「特別な子」ではなく「多様な仲間」としてかかわり合う関係を目指せたら素晴らしいですよね。

ステップ2:明日からできる!インクルーシブ保育の環境構成3つのスローステップ

ここからは『明日からでもできる!インクルーシブ保育の環境構成3つのスローステップ』をご紹介します。

この“3つのスローステップ”は、保育施設での事例や国・自治体での政策実例などを参考に、元保育者・発達支援経験による「これなら実践できそう!」と考えたものです。

「すぐに実践したいけど、何をしていいかわからない」「もうインクルーシブ保育はあきらめてた」という方、ぜひご参考までにご覧ください。

【スローステップ1】混乱を減らし、安心感をつくる「見通しとユニバーサルデザイン」の工夫

子どもたちの生活の中心でもある保育生活は、日々の混乱や不安は自然と湧いてくるものです。
そんな揺らぎのある思いに寄り添い、安心できる環境をつくっていきたいですよね。

たとえば、こんな子どもたちの思いがあるとします。

「次はなにするんだろう」
「ねんちょうさんのお部屋はどうやっていくのかわからないよ」

子どもの“わからない”気持ちは、不安や混乱を招きます。
これは大人も同じですよね。

そんな不安や混乱を安心に変える
それが「見通し」や「ユニバーサルデザイン」の工夫です!

ここでは、2つの案をご覧ください。

提案① 時間の流れと場所を「見える化」

見える化」は子どもたちに安心感を与えます。

たとえばこちら
・1日の流れを時系列で表示
・各活動のコーナーづくり、休憩スペースの確保
・写真やイラストを活用して“わかりやすさ”を取り入れる
など
※発達・知的特性などの配慮例

子どもたちの安心できる気持ちが
自分はここにいてもいい存在なんだ」という自己肯定感を育み
園が自分の大切な居場所として認識できるようになります。

「あ、次はおべんとうを食べるんだ!」
「もう少ししたらたくさん遊べそう!だから、今がんばろう」
「ブロックは、ここでなら思い切って遊べそうだ」
「つかれたら、休む場所でごろごろしよ〜」

子どもたちの見通しがはっきりすることで、
今に集中できたり、一歩前の活動を意識した行動が自然と取れるようになったりします。

ここで、ひとつ質問をさせてください!

こんなよくある保育者の声かけ。
子どもたちは、どんなふうに受け止めるでしょうか?

「朝のあいさつが終わったら、外へ行くよ。外から帰ってきたら、お部屋で製作するよー」

たとえば知的に特性のあるお子さんでは、次は何をするか覚えられなかったり、注意散漫になりやすいお子さんは、周りの様子や音などが気になって先生の言葉が情報として入ってこなかったりします。

そうした特性・発達を考慮しないまま「なんで聞いてないの!」と仮に先生が怒ってしまえば、
お子さんは活動や園がイヤになってしまいます。

そういう意味でも「見える化」はとても重要なポイント。

提案自分でできる!を支える「身の回りのこと」をスムーズにする環境づくり

保育現場では「身の回りのことは自分でできる」をねらいにしています。
その一方で、身支度がスムーズに進まなかったり、発達段階として難しかったりする場合は少なくありません。

実はそれ、環境を見直す絶好のチャン。

身辺自立のつまづきは、環境が要因になっていることがよくあります。
ぜひこの機会に身の回りのことをスムーズにおこなえる環境づくりを取り入れてみましょう!

たとえばこちら
・誰でも使いやすい配置
・表示・道具の活用
など
※身支度・身体的サポートの例

障がいの有無や個人差によって必要な手立ては変わりますが、環境づくりはどんなお子さんも包括できるような環境・体制が望ましいと思います。

ここでは、以下の論文も参考にしました。

2025年3月富山国際大学子ども育成学部発行の論文『インクルーシブな保育実践の検討〜「環境」に焦点をあてて〜』では、認定こども園の保育実践の分析結果をまとめています。

こちらの論文では、インクルーシブな保育を実践する環境についてICFを活用した分析がおこなわれました。

そもそも、費用・時間などのコストにゆとりがあれば、理想的な環境にしやすいのにって思っちゃいますよね。

たとえば!

・バリアフリー
・足元から天井近くまで広がっている窓はハイハイなどの低い姿勢でも外が見える
・担当保育者と看護師のスムーズな連携によってフォロー体制確立

など色々あります。

しかーし、あまりコストをかけなくても環境づくりは可能のようです。

たとえば…

・ほかの子どもたちと同じ目線の高さに教材を配置する
・身の回りのモノの場所を写真やイラストで表示する
・身支度しやすい環境に整える

すべての子どもたちが手にとりやすいように同じ目線の高さに教材配置を設定することで、
ハイハイや座るなどの低い姿勢でも場の共有がしやすくなります。

また、身の回りで使う道具やおもちゃの片づけモノの場所を表示することで始末がスムーズになるでしょう。

とくに頻度の多い身支度の場面では、子どもにわかりやすい表示物を用意し、子どもの目線・特性に合わせて「目の前のやること」に集中しやすい環境づくりがおすすめです。

ここをチェック
・日常的におこなう身支度は気が散りにくい環境になっていないか。
・子どもが自主的に取り組められる設備や環境構成になっているか

また、富山国際大学子ども育成学部の分析ではポジティブな結果がみられています。

・障がいのあるお子さんが自己決定や自己選択した活動ができる
・周りの子どもたちが「特別な子」だと思わずに理解してかかわっている
・周りの子どもたちが障がいのあるお子さんに対して配慮の必要性を自ら考え行動している
・互いの違いを気づいて自然に受け止めてられる

インクルーシブ保育は『どうすれば実現できるかを出発点に考えることが必要なんだとわかります。そして専門機関との連携も欠かせないポイントになりそうです。

【スローステップ2】成長を促し、視野を広げる「体験と交流」の空間づくり

集団生活で過ごす子どもたちのなかには、こんな思いもあります。

「ざわざわした音が気になる」
「ぼくよりも小さいことあそぶほうが楽しい」

周りのざわざわした音や雰囲気が気になったり、同年齢よりも異年齢のお子さんのほうが関係を築きやすかったり場合もあります。

これは、めずらしいことではありません。わりとナチュラルな感覚かもです。

保育現場では多様な子どもの成長を促し、視野を広げるために『さまざまな体験と交流ができる』空間づくりを意識してみましょう。

視点を変えて、ぜひいろいろな工夫を取り入れてみてみよう。

提案① 感覚特性に合わせた教材で「五感」を豊かに刺激する

子どもにも大人にも、さまざまな感覚特性があります。小さな音が気になったり、素材によって肌に触れたくないものがあったり、周りの雰囲気を敏感に感じ取りやすかったりなど。

たとえばこちら
光、音、匂いなどに敏感なお子さんも安心できる多様な素材やスペース
※感覚特性の配慮例

まぶしさをおさえた照明を取り入れたり、音が反響しにくいように吸収材を使ったりと、本格的な設営の見直しもありますが、以下のような方法もあります。

・パーテンションやカーテンなどを使って視覚的な刺激をおさえる
・棚や机の配置を工夫して区分けしたコーナーづくり
・やわらかい色味、やさしい素材感を使用した空間づくり

たとえばパテーションでは、大きめのダンボールを使って作ることも可能です。また、原色の赤などの強い色は避けて、肌さわりのよい素材などを活用するのもいいでしょう!

提案② 異年齢の子どもたちが「自由に交流」できる場をつくる

異年齢の子どもたちと自由に交流できるフリースペースは、さまざまな子どもたちとの交流において主体的な参加を可能にします。

たとえばこちら
誰もが参加しやすく、対等に遊べる教材や居場所の配置
※発達・成長段階を問わない環境例

たんにフリーな場所をつくると言うよりも、どのような成長発達段階・障がいのあるお子さんも一緒に楽しめるスペースを目指してみましょう。

たとえば「誕生日会」「全園児交流会」のような特別な一斉活動を設けなくても、自然な流れのなかで生まれる“異年齢交流”ができる環境は、子どもたちの主体性や考える力が育まれます。

ほかの保育施設の事例をみると、 みんなが同じ目線になるような教材配置などの工夫もみられています。詳しく知りたい方は、以下の参考元の事例もチェックしてみてください。

参考元:2025年3月富山国際大学子ども育成学部発行
インクルーシブな保育実践の検討〜「環境」に焦点をあてて〜

【スローステップ3】インクルーシブの軸「違いを認め合う」を育む保育者のかかわり方

人間には、障がい、国籍、性別、個性、特性などのたくさんの違いがあります。こうした違いを認め合う。それがまさに“インクルーシブ教育”のカタチです。

日常的に子どもたちとかかわる保育者の姿は、子どもたちの行動・考え方などに影響を与えます。そんな私たちがなにがのできるか。少しずつでも考えて行動に移していきたいですね。

たとえばこちら
子どもに伝わる見本を示す
例:言葉、絵本、保育者の振る舞い、劇など
活動のやり方を見直す
例:画一的な学び→主体的な学びへ

さまざまな子どもたちを肯定的に捉えて受け入れる保育者の姿は、子どもの学びそのものになります。

この機会に言葉使いや、行動などをこまやかに見直してみましょう。また、絵本や劇の力も活用することで感覚的にわかりやすく伝えられそうですね!

園全体としてでできることは、活動の見直しなどがあります。

園全体活動から各クラスの活動まで、画一的なやり方にメスを入れる機会を設けてみるのもおすすめです。その際にも「できるために何をどうしたらクリアできるか?」を問い直していきます。

とはいえ、職員間のコミュニケーションや各職員の考え方でお悩みの方も少なくないのではないでしょうか。

「うちの園は時間がかかりそうだな」「意見の相違が多くてそんな話し合いは難しそう」という方は、こちらの記事もぜひ参考にしてみてください。

ステップ3:3つのスローステップを継続する「チーム」と「連携」の整備しよう

これまでご紹介した“3つのスローステップ”を実現し、さらにアップデートを図るには、チーム・連携がカギになります。

以下の2つの視点から考察し、連携のコツを整理してみましょう!

  • 運営者として
  • 保育者として

それではさっそく、順番に解説します。

【運営者向け】連携を深める!専門機関と「切れ目なく」つながる仕組み

専門機関と連携を深めるためには、まずは保育所等訪問支援を利用しましょう。

専門機関には、地域のインクルージョン推進を担う『児童発達支援センター』、訪問支援などで連携を図る地域全体の支援整備を担う『市区町村』、そのほか『児童発達支援施設』『放課後等デイサービス』などがあります。

たとえば児童発達支援センターでは、地域全体の障がいのある子どもへの支援力の向上に努めます。訪問支援機関としても重要なポジションを担う専門機関です!
また、市区町村では地域の資源を把握して子どもと家庭を地域全体で支える役割があります。

専門機関とのフォロー体制を確立するためには、看護師担当保育士などの職員間での情報共有をスムーズにしておくのがポイントです。

訪問支援は一度きりで終わりでなく「切れ目なく」つながることに意味がある。

そして少しでも気になることがある場合は、まずは職員間で共有しておきましょう。
職員間のコミュニケーションに不安な方はこちらも。

また、専門分野の知見・知識を広げるために、職員向けの研修などを取り入れて質の高い保育提供を目指し、他園との差別化も図っていけそうですね!

その辺りが気になる方は、こちらもチェックしてみてください。

参考元:令和6年7月こども家庭庁発行「保育所等訪問支援ガイドライン(詳細版)

【保育者向け】卒園後の姿を見据えよう!幼保小の連携と不登校の視点

保育者は運営者とともに、専門機関についての知識をもちながら、子どもたちの支援体制をしっかり見据えてきましょう。

そのためにどんなことができるか?私なりに考えてみました。

・卒園後の姿を見通す
・小学校への円滑な接続に向けた情報共有
・さまざまな要因への理解を深める

現在の園生活での様子は、その先の人生につながります。

子どもたちの就学後の姿を、なるべくズレが少ないように見通し、あわせて観察し見守り、必要なサポートを続けていくことが大切です。

小学校への円滑な接続には、なるべく正確な情報共有が求められる。

一方就学先の小学校では、就学前の様子をしっかりと把握し、個々の支援体制をふくめたカリキュラムを構築が望ましいでしょう。

ここは個人的な意見ですが、小学生のカリキュラムが幼保に寄せてもいいかなと感じてしまいます。

とくに低学年は焦らずゆったり育んでもらいたい

保護者・元保育者としての率直な思いです。

また、感覚過敏や特性などが要因で不登校につながるケースもあります。そのため、さまざまな要因への理解を深めることの必要性が高まっているでしょう。

保育者としては、子どもたちの特性や困りごとなどがわかる具体的な場面・状況を文書に添えたり、実際に気になる言動や言葉を共有したりと、就学先のフォロー体制が構築しやすいような情報を伝えられるといいでしょう。

ただし、子どもの見方は人によって異なることがあります。対応の正解はひとつじゃありません。私自身も不登校の子をもつ親でもありますが、個人的な見解では“柔軟な対応が子どもを救う”ように思います。

まとめ:インクルーシブ保育は環境・考え方のチェンジから!

インクルーシブ教育とは「特別」なことではなく、「みんなの生きやすさをつくる」ことです。

設備、費用、職員間での意見の相違など、いくらでも課題はつきないかもしれません。けれど大切なのは「じゃあ、今何ができるか」という、先を見通した広い視点ではないでしょうか。

子どもたちが、人それぞれの“違い”や“個性”を知り、そうした機会を保育者が積極的につくって、丁寧に扱っていくこと。
園生活を通して、子どもたちが自然と学んで考えられる機会にしたいですね。

そして、専門機関・就学先の学校などとの連携は、これまで以上に重きをおく意識が大切です。

卒園後の子どもたちの明るい姿を描けるように、私たちが今できることを考えていきましょう!